戸建賃貸で備える相続対策|評価の仕組みと節税の基本をわかりやすく解説
少子高齢化が進むなかで、親世代から子世代への資産承継が大きな課題となっています。
なかでも不動産は「分けにくい」「価値が変動しやすい」「税負担が重い」という三重の問題を抱えており、相続をめぐるトラブルや納税資金の確保が年々深刻化しています。
たとえば、相続人同士で「誰が不動産を引き継ぐのか」「現金で清算すべきか」を巡って揉めるケースや、相続税の納付のために本来残したかった土地を手放さざるを得ないケースも少なくありません。
一方で、早い段階から計画的に不動産を「貸す」「建てる」「活かす」ことで、資産を守りながら税負担を軽減することができるというのも事実です。
特に、土地を遊ばせずに戸建賃貸住宅として活用する方法は、ここ数年で注目を集めています。
戸建賃貸は、アパートやマンションに比べて初期投資が抑えられ、入居者層も安定しており、長期的な収益性が見込めます。
さらに、税務の観点からも「貸家建付地」として評価が下がるため、相続税の圧縮効果が期待できる点が大きな魅力です。
また、複数棟の戸建賃貸を建てることで、将来的に相続人ごとに分けて相続できる柔軟性も確保できます。
これは、1棟のアパートやビルを相続する場合に比べて、トラブルを防ぎやすく、資産の分割・承継がスムーズに進むというメリットがあります。
つまり、「戸建賃貸による相続対策」とは、単に税金を減らすだけでなく、家族にとって価値のある“残し方”を設計することでもあります。
本記事では、そうした観点から、戸建賃貸物件を活用した相続・税務対策の基本的な考え方と、
具体的に押さえておきたい評価減・特例・贈与・分割のポイントについて、わかりやすく解説していきます。

相続税評価の基本を理解しよう
相続税を考えるうえで最も重要なのが、「不動産の評価は時価ではなく“相続税評価額”で決まる」という点です。
市場で実際に売買される価格(時価)と、相続税計算に使われる評価額とは大きく異なり、この差を理解しておくことで、どのように相続税を軽減できるかが見えてきます。
不動産の評価方法の基本
相続財産のうち、土地と建物はそれぞれ以下の方法で評価されます。
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土地:路線価 × 面積(㎡)
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建物:固定資産税評価額(自治体が毎年算定)
この「路線価」は国税庁が毎年発表するもので、一般的に時価の約80%程度といわれています。
つまり、同じ面積の土地でも、エリアや道路に面する条件によって評価が大きく異なります。
角地や商業地などは高く、奥まった住宅地や旗竿地は低く評価される傾向があります。
賃貸中の不動産は「評価減」の対象になる
ここで重要なのが、「その不動産が自分で住んでいるのか、他人に貸しているのか」で評価が変わる点です。
賃貸として貸している場合、その土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」、建物は「貸家」として扱われ、いずれも評価額が下がる(=相続税が軽くなる)のです。
なぜ下がるかというと、賃借人(入居者)の権利が発生しているため、「所有者が自由に処分できない資産」とみなされるからです。
この“制約”がある分、税法上では価値を低く評価してよい、という仕組みです。
評価減のイメージ
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 土地の時価:3,000万円
- 路線価による相続税評価額:2,400万円(=時価の80%)
- さらに貸家建付地として利用している場合:評価額がさらに約20〜30%下がり、1,700万〜1,900万円程度に圧縮される可能性があります。
つまり、まったく同じ土地でも、「自宅として保有」しているか「戸建賃貸として貸しているか」で、相続税評価額に数百万円単位の差が出ることも珍しくありません。
戸建賃貸にすることで“生かしながら減らす”
この仕組みを活かせば、単に土地を遊ばせるのではなく、戸建賃貸として運用しながら資産を保有することで、税務上も有利な状態を作ることができます。
さらに、賃貸収入があることで固定資産税やローン返済に充てることもでき、「相続税の評価減」と「安定したキャッシュフロー」の両方を実現することが可能です。
加えて、複数の戸建賃貸を建てておけば、将来的に相続人ごとに分割して承継することも容易になります。
つまり、評価額の引き下げ効果に加えて、分割・運用の柔軟性というメリットも得られるのです。
評価の“仕組み”を理解することが第一歩
相続税対策は、まず現状の資産がどのように評価されるのかを正しく把握することから始まります。
路線価の確認や評価減の試算は、専門家のサポートを受けながら進めるのが安心です。
その上で、「どのタイミングで賃貸化するか」「どの規模で建てるか」を計画すれば、資産を減らさず、次世代にしっかりと引き継ぐ仕組みを整えることができます。
戸建賃貸が相続対策に向いている理由

相続税対策を目的とした「不動産の賃貸化」には、アパート経営やマンション建築など複数の選択肢があります。
その中でも、戸建賃貸は、土地の規模や立地を問わず活用しやすく、相続対策として非常にバランスの取れた手法です。
ここでは、戸建賃貸が相続対策に適している3つの理由を具体的に見ていきましょう。
分割しやすく、相続トラブルを防ぎやすい
相続で最も多いトラブルのひとつが、「不動産の分割をどうするか」という問題です。
1棟のアパートやビルのように、ひとつの大きな資産を複数人で共有する形になると、「誰が管理するのか」「売却するか」「どのように収益を分配するか」などで意見が割れやすくなります。
その点、戸建賃貸は1棟ごとに独立した資産として扱えるため、将来的に子どもや相続人が複数いる場合でも、「1棟ずつ分けて承継する」ことが可能です。
また、相続後に一部を売却したり、一部を継続運用したりといった柔軟な対応もしやすくなります。
たとえば、60坪の土地に2~3棟の戸建賃貸を建てておけば、将来的にそれぞれの棟を別の相続人に渡すことができ、「平等に分けやすい=揉めにくい」相続を実現できます。
この「分けやすさ」は、相続を“争族”にしないための大きなポイントです。
売却・現金化がしやすく、柔軟な資産運用ができる
アパートやビルのように大規模な賃貸物件は、売却先が限られ、現金化までに時間がかかる傾向があります。
一方で、戸建賃貸は一般の住宅としても市場価値があるため、「投資家向け」「居住希望者向け」の両方に売却が可能です。
つまり、必要に応じて柔軟に現金化できる“出口の広い資産”であることが大きなメリットです。
特に近年は、
- 「ペット可」「駐車場付き」などの戸建賃貸がファミリー層に人気
- 中古戸建市場が活発化しており、再販しやすい
といった市場背景も後押ししています。
このように、建てた後の選択肢が多いという点で、戸建賃貸は資産運用・承継の両面から優れた手法といえます。
建築コストを抑えつつ、評価減の効果を得られる
もうひとつの大きな利点は、建築コストと評価減のバランスです。
アパートを建てる場合、数千万円単位の初期投資が必要になるケースもありますが、戸建賃貸であれば、1棟あたりの建築費を抑えながらも、相続税評価の引き下げ効果を得られるのが特徴です。
さらに、木造でコンパクトな構造にすることで、建築コスト・固定資産税・維持管理費も軽く済み、収益性を高めることができます。
加えて、前章で述べたように、賃貸化することで貸家建付地として評価額が下がるため、
相続税の軽減効果も期待できます。
例:更地として3,000万円評価されていた土地に、2棟の戸建賃貸を建築して貸し出した場合、
評価額が約2,000万円前後に下がり、相続税負担を数百万円単位で圧縮できるケースもあります。
“無理のない相続対策”として選ばれている理由
戸建賃貸は、「資産を守る」だけでなく「活かす」発想の相続対策です。
節税を意識しつつ、家賃収入という安定したキャッシュフローを確保できる点も大きな魅力。
アパートのように一括管理が難しくなく、管理負担が比較的軽いことも、ご高齢のオーナー様にとっては安心材料になります。
「土地を相続したが、どう活用すべきかわからない」「子どもたちに迷惑をかけたくない」そんな方にこそ、戸建賃貸という“やさしい相続対策”が選ばれています。
まとめ
相続や贈与の問題は、誰にでもいつか必ず訪れるテーマです。
しかし、「評価の仕組み」や「不動産の扱い方」を理解しておくことで、
資産を“減らさず”“活かしながら”次の世代へつなぐ準備を始めることができます。

戸建賃貸は、税務上の評価減や分割のしやすさといった面からも、“無理のない相続対策”として非常に有効な選択肢です。
次回の記事では、より実践的な視点から、「税務上の注意点」や「専門家との連携による最適なプランニング」**について詳しく解説します。
具体的な制度の使い方や、相続をスムーズに進めるための考え方をわかりやすくご紹介します。
ライター:森田 貴大 AM事業部

不動産売買全般と土地活用のご提案として『戸建賃貸エクリュ』の建築に携わっております。
CPM(不動産経営管理士)の理論を基に投資分析を行い、資産運用のお手伝いをいたします。
また、『戸建賃貸エクリュ』だけでなく、お客様の大切な資産である土地を、どう活用していくことが最善なのかを提案いたします。
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「所持資格」
CPM®(公認不動産経営管理士)/宅地建物取引士/相続アドバイザー
